2011年 心が折れた言葉

この1年、政治家や有名人の言葉で、心底がっくりきたことが3回ありました。
「三大がっくり言葉」と呼んでいるのですが、思い切って書いてみます。


○昨年の紅白歌合戦での某作家のコメント。
「素晴らしいパフォーマンスに刺激され、早く帰って原稿を書きたくなった」
○菅前首相が震災三ヶ月後に被災地の釜石を視察したとき、よせ書きに書いた言葉。
「決然と生きる」
○一川防衛大臣が国会で沖縄米兵少女暴行事件について問われたときの答弁。
「正確な中身を詳細には知らない」


話はかわりますが、
もし目の前をマラソンランナーが走ってるとして、言葉をかけるとしたら、
皆さんなら、どう言いますか?


第1回東京マラソンを走った時のことです。

浅草雷門を折り返し30kmをすぎたところで足がつりそうになり、ちょっと歩き始めてしまいました。周りにも歩く人が多かったです。
早朝からすごい雨で、体力を奪われてしまったのが原因だったのでしょう。
その時、応援する人達にまじって、
「おい、歩くな! こっちも(道路封鎖されて)迷惑なんだぞ!」
と野次をとばす人がいました。
なんだか「がくっ」と来てしまいました。今風にいうと「心が折れた」わけです。

東京の真ん中を堂々と走れるのは、協力して下さる都民の皆さんのおかげ。
ランナーはわかってます。
「私だって歩きたくないけれど、ゴールしたいんだよぉ〜!」と心で泣いていると、
「寒いでしょう!これ飲んで!」と温かい缶のコーンスープを差し出してくれた方がいらっしゃいました。
ありがたくて嬉しくて、涙がでました。
スープで元気を取り戻して銀座まで走ると、沿道からたくさんの声援をいただきました。
こんなへなちょこランナーなのに…。 もちろんおかげさまで無事ゴールできました。
人々の優しさへの感謝、そしてゴールの達成感で、
すっかり野次のことなんて忘れていたんですけれど。

上記のような「がっくり言葉」を目にするたび、
ふと、その野次のことを思い出すんですね。

雨にうたれて必死で走っている人に、心ない言葉をかける人がいる。
(そりゃランナーは好きでつらい目にあってるわけですが。)
もし「マラソンなんて迷惑」と思うのだったら、主催者に訴えるべきで、
ふらふらになっている市民ランナーに八つ当たりして、誰が得するんでしょう?

ある場面では、好き嫌いぬきに決まった言葉をいうしかない、
ということがあると思います。
ラソンを走るランナーには、応援のことばであり、
結婚するカップルには、祝福のことばであり、
親族をなくされた方には、お悔やみのことばです。
パーティに招待されたら、もてなしへの感謝のことばであり、
思いもかけない大変な目にあった方には、なぐさめや共感や励ましのことばです。
そういう普通の当たり前のことばを言えないのなら、
その場に行くべきではないでしょう。

そんな場面で、ちょっとひねくれたり変わったことを言うのを、
個性とカン違いしている人が、多いんじゃないかなって思います。


前首相の「決然と生きる」というよせ書き。
被災者の方々は、生きていくのさえ大変な状況なのに、決然も何もないでしょう。
政局での自分のあるべき態度を被災者にむけて書いて、どうするの?と思いました。
元々は玄侑 宗久さんの言葉らしいのですが、
つらい時に「主体的に生きよ!」と言われても、なぐさめにも力にもなりません。
こういう時は、ひとこと「復興」とか「希望」と書いてほしかったです。

次に、防衛大臣の「正確には詳細を知らない」という答弁ですが、
私は、大臣に事件の詳細を正確に覚えていてほしい、とは思っていません。
そうではなく、あの事件の理不尽さと凄惨さを知っていてほしいと思います。
「たいへん傷ましい事件」「二度と起きてはならない事件」などのひとことがあれば、
沖縄の人々への印象もかなり違っていたと思います。
どうして、この普通のひと言が言えないのか? ものすごく不思議でした。

政治家は、言葉で人々から票を得て、言葉で国民の利益を(うまく)再分配する職業であるのに、この2人には、共感能力や基本的な言語能力が欠けているのか、と思いました。

最後に、昨年の紅白での「早く帰って原稿を書きたくなった」
という作家のコメントですが、
言葉を操る職業の人にしては、奇妙で失礼なコメントだと感じました。
早く帰ってしまったら、後の人のパフォーマンスはどうなるんでしょう?
一年を代表する人として招かれたのなら、「パフォーマンスを楽しんだ、刺激された」という表現で充分でしょう。
私は「こういう失礼な人の作品は、どんなに売れてても読みたくないな」と思いました。
同じ紅白で、もう1人の作家の方は「感動しました。来年も頑張ります」と普通に述べてらっしゃいましたが、今年も本にドラマにと大活躍されてますね。

ここまで書いて、自分で思い当たるふしもあり、
私も口にする言葉に気をつけなくては、と思いました。
大切な場面では、余計なことを言わず、当たり前の普通のことばを話せるように。
でも、ブログでは思ったことをできるだけ率直に書いていきたいです。

次回は、「2011年 元気づけられた言葉」を書きますね!